NEC から発売されたプロフェッショナル向けモニタのフラッグシップモデル「MultiSync LCD2690WUXi」。
25.5インチWUXGA・NTSC比91% を誇る IPSパネルと、 ハードウェアキャリブレーション・ムラ補正機能 等を備えた、
高品位次世代ディスプレイの使用感・性能・他製品との比較をレビューしています。
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LCD2690WUXi は何度も述べたとおり、LG Display 社の最新IPS液晶パネル「H-IPS」パネルが搭載されています。では同社の従来パネル「S-IPS」パネルと比べ画質がどのくらい向上しているのでしょうか。私の妹が趣味で使っている Apple iMacG5 2.0GHz 20.1" モデルが LGの S-IPSパネルを搭載しているため、これとLCD2690WUXi を比較してみます。
▲ 左が iMacG5 ( S-IPS ) 、右が LCD2690WUXi ( H-IPS ) : 正面から撮影・横から撮影
従来のLG-IPSパネルは バックライトの光漏れがみられ、特に斜めから見たときに暗部が紫化するのが特徴でした。写真を見ると iMacG5 でも見事な典型的LG-IPSパネルのバックライト漏れが見受けられます。一方、H-IPSパネルを積んだ LCD2690WUXi はバックライト漏れが極めて抑えられているのがわかります。興味深いのが、LCD2690WUXi のバックライト漏れは緑色で、またややムラになっています。私のLCD2690WUXi の場合、上部のやや右側が緑が買っていて、オーロラをみているような感じになっています。そして驚くべきは斜めから見たときの光漏れで、LCD2690WUXi は角度に関係なくバックライト漏れを抑制しています。
ではこれらのバックライト漏れ特性の違いが、どのように表示映像に影響するのでしょうか?
真横にずれる分には画質にあまり影響を与えませんが、S-IPSパネルではちょっとでも上下の角度がつくと映像にバックライト漏れの影響が出てきます。ところで上の画像には1つトリックが仕組まれています。実は斜めからの撮影時に、LCD2690WUXi の輝度を2〜4割ほどアップして撮影しました。これは S-IPSに比べ H-IPSは斜めから見たときに輝度が低下したためです。また、LCD2690WUXiや、同じH-IPSパネルを採用した RDT261WH は従来のLG S-IPSパネルや、日立製 S-IPSパネルと比べ視野角が狭くなっているという意見をしばしば聞きます。 憶測ですが、H-IPSパネルは視野角を多少犠牲にしても、従来パネルで問題だったバックライト漏れによる色変位や黒浮きを防ぐ改良を施したと考えられます。(たとえば偏光板の改良・強化) とはいえ、H-IPSの視野角は、TNパネルや VA系パネルと比べ格段に広いため実用には全く問題ないといえるでしょう。
またパネル表面の特徴ですが、 「ギラギラ」と呼ばれる不快なノイズが劇的に改善されています。また S-IPSパネルでは見る角度や、室内照明の当たり具合によって、スーパーのサッカー台でもらえる小さな透明ビニール袋を貼り付けたような不思議な光の反射が見られますが、H-IPSパネルには全く見られません。(おそらく、パネルのノングレア処理による差だと思います。)
S-IPSパネルも、H-IPSパネルも、IPSらしい落ち着いた絵を出しますが、著しく進化していることを実感しました。LG S-IPSパネルは一時期品質が落ち、 サムスンの S-PVAパネルと並ぶ「糞パネル」というレッテルを貼られ、いまでもそのイメージが残っています。(特に「ギラギラ」を気にするユーザー層にはトラウマ的存在)しかし、この劇的な改良によってそのようなレッテルは取り去られることでしょう。
( しかし、視野角や表面の平面感・透明感(ギラギラのなさ)は日立の日本製パネルのほうが格段に優れています。)
同じ LG H-IPSパネルを採用した RDT261WH は、パネルのポテンシャル自体は LCD2690WUXi と同等です。 しかし、これら2製品の方向性は全く異なっています。RDT261WH は、明るく、鮮やかで、動画に強いコンシューマー向けハイエンドディスプレイを目指しています。 インターレース入力への対応(I/P変換回路搭載)や、色差入力対応などの隠し機能で、いわゆる「ハイデフ」時代の新型ゲーム機や、デジタルテレビチューナーを接続して映像を楽しむこともできる最強のマルチメディアディスプレイに仕上がっています。 しかし、画像をいじりすぎる傾向があり(素人受けを良くするため?)コントラストをいじりすぎてトーンジャンプが発生する場合があるなどの欠点もあるようです。 また、輝度ムラ・色ムラ・ドット欠けなどのパネル選別基準の甘さに起因する個体差もしばしば報告されています。一方、NECはこれまで紹介したとおり、グラフィックスに特化しています。
LCD2690WUXi との価格差は 4〜6万円。RDT261WH の映像入力に関する強さを抜いて考えれば、LCD2690WUXi との差は映像制御回路の品質・性能・機能のガチンコ勝負になります。 ムラ補正機能や、ハードウェアキャリブレーション、12bitの高精度ガンマ補正テーブル、あるいはピボット機能への対応にこの差額分の価値を見いだせるかがポイントとなります。厳しく見ると、RDT261WH と LCD2690WUXi の画質は別次元です。 個人的には「せっかく10万円オーバーの高い買い物をするのなら、変な妥協はしたくない」と思い NEC にしましたが、その判断は正しかったと確信しています。
それでも、RDT261WH は非常に煮詰まった完成度の高い魅力的なディスプレイに仕上がっていると思います。
価格、解像度、色再現性、視野角、動画性能、見やすさ、どれを取っても致命的な欠点がないのは極めて珍しいと思います。「ゲームと画像いじり、どっちに重みを置く?」という極論的判断でどちらにするか決めても十分満足できると思います。
LEDバックライトを搭載し、簡易測定器「huey」やアルミ製遮光フードまで付いて、16万円という超低価格を打ち出した AdobeRGB対応カラーマネージメントモニタ「XL20」。
このべらぼうな価格にも注目が集まりましたが、それよりも注目を集めたのが度重なる発売延期 と 仕様変更。LEDバックライトの制御に相当苦労したようです。
NTSC比 114%の広色域で AdobeRGB対応を大きくうたっていますが、海外の検証サイトによるとブルがー sRGB すら満足しておらず、LCD2690WUXi 未満だったという測定結果がでています。(この結果は XL20公式マニュアルに載っているガマットとほぼ一致しており、信頼できるデータであると思われます。)
このディスプレイで一番心配されているのが LEDバックライトで、経年劣化による輝度ムラ、白点ズレが懸念されています。先駆けて LEDバックライト採用した NEC LCD2180WG LED は、無数のセンサーで LEDの発光状態を1分ごとに計測し その結果を制御回路にフィードバックし画質に影響が出ないように細心の注意が払われています。 しかし、サムスンの XL20 にはどうやらこのような高度な機能はついていません。そのかわりに、付属の簡易計測器で画面の指定された複数の点の輝度を計測し、ムラを修正するソフトウェアが付属していますが、その実用性はまだ未知数です。
これら2製品の違いは価格と重さに大きく出ています。XL20が16万円に対し、LCD2180WGLEDはなんと100万円(実売80万円前後)もします。 そして最も驚くべきはその重さで、XL20 が 7.6kg であるのに対しLCD2180WGLEDは 2.4倍の18.3kg とディスプレ一体型コンピュータ並の重量です。 NEC LCD2180WGLED は何もかも化け物のような製品ですし、同社のフラッグシップモデル「LCD2190UXi」が実売価格15万円であることを考えるともはや「異常」です。 しかし、裏を返せば「実用に耐えうる画質を実現するには、どうしてもここまでやる必要があった。」とも言えます。 つまり、この価格と重さ(内部の複雑さ)は、LEDでバックライトを作るのはいかに困難であるか という事を物語っているとも考えられるわけです。
もしこの製品の画質が良ければ、大勢の方が言っているように「他の全てのモニタは一瞬にして滅亡する」でしょう。しかし世の中、そうウマい話はありません。 まだ製品が多く出回っていないので、画質についてはあまり言えませんが、実機をみた人はみな口を揃えて「まあ、、、値段相応だね。」と意味深なコメントを言います・・・。果たして XL20 の実力はいかに!?
ちなみに2007年中に、このXL20 のワイド版(WQXGA)・XL30 の発売が予定されています。 このとき、普及価格帯LEDバックライト液晶モニタと、LCD2690WUXi(あるいはその後継機)の真っ向勝負が行われることでしょう。
おまけ : XL20のマニュアルに「この製品には、100万分の1以上の精度を持つ先進の半導体技術で製造されたTFT液晶パネルが使用されています。 しかしまれに赤、緑、青、白のピクセルが明るく見えたり、黒いピクセルが発生することがあります。 これは製品の不良ではありませんので安心してお使いください。 」という記述があります。つっこみどころ満載です。
この章では、LCD2690WUXi を実際に1年間使って感じた欠点を中心に述べます。ここまで5ページを使って LCD2690WUXi をあらゆる角度からレビューしましたが、購入を検討している人にとっては、ここが一番役に立つかもしれません。
LCD2690WUXi は比較的目に優しく、価格もとびぬけて高くはないため、「ちょっと欲張りって良いモニタが欲しい」という人にはもってこいのディスプレイです。ただ、L997、CG211、CG221 などと比べると、優劣はおろか、居る世界が違うことを実感します。とてもこれらの国産液晶ディスプレイには及びません。視野角も、見やすさも、ムラのなさも、発色もすべて勝っています。特にColorEdge CG IPSシリーズは大変高価ですがそれだけの「価値」を持っていると思います。色にシビアなグラフィッカーの方は、国産の液晶ディスプレイも検討することをおすすめします。私はLCD2690WUXi で十分ですが・・・。
これまで紹介したように、LCD2690WUXi は極めて品質の高いディスプレイに仕上がっていると言えます。 パネルの選別、映像の制御、筐体の設計など、全てにおいて細心の配慮がなされており、日本メーカーの「ものづくり」への心意気をかいま見ることが出来たような気がします。
LCD2690WUXi は、CRTにはなかった高い解像度と、広い色域をもたらしてくれました。まだまだ液晶ディスプレイは、CRTに比べて改善すべき点がまだまだありますが、着実に進化していることを実感させてくれる製品でした。この LCD2690WUXi の登場は、液晶ディスプレイの新しい時代の幕開けになったと感じています。