NEC から発売されたプロフェッショナル向けモニタのフラッグシップモデル「MultiSync LCD2690WUXi」。
25.5インチWUXGA・NTSC比91% を誇る IPSパネルと、 ハードウェアキャリブレーション・ムラ補正機能 等を備えた、
高品位次世代ディスプレイの使用感・性能・他製品との比較をレビューしています。
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LCD2690WUXiは、AdobeRGB色空間をおよそ9割カバーしていることから、 近年の AdobeRGBに対応したデジタルカメラや各種スキャナなどのデバイスが持つ色情報をより多く表示できるという利点があります。これらは言わばコンピュータへ「インプット」に関する色再現性のおはなしです。では逆に「アウトプット」ではどうでしょうか。代表的なアウトプットといえば「紙への印刷」です。一般的な商業印刷(オフセット印刷)で用いられる色域は、一部の色では sRGB でも十分にカバーしますが、sRGB では再現できない色が多く存在します。DTPに携わる者にとって、印刷した紙で出る色が、モニタでは出ないというと、非常に困ったことになります。近年、液晶ディスプレイが AdobeRGBへ対応を積極的に取り組んでいるのは「印刷物に使用する色を再現できるモニタを作るため」でもあるのです。
印刷に使用する色といえば、2001年に日本雑誌協会(JMPA)が提唱した「JMPAカラー」という基準カラーがあります。JMPAカラーでは 大日本印刷・凸版印刷・共同印刷 の業界王手三社における、オフセット輪転印刷・コート紙での基準色を平均した、実用的なカラースペースになっています。JMPAカラーを基準にすることで、雑誌広告デジタル校了ワークフローのデジタル化が一気に普及すると見られています。さらに、印刷物のデザインから印刷までのワークフローを JMPAカラーに統一すれば、以下のありがちなトラブルを防ぎ、色校正のためにバイク便で印刷物を投げ合う必要性もなくなると期待されています。
では、そんな JMPAカラーをLCD2690WUXi はどれだけ再現できるか検証したいと思います。 まずは、従来の sRGBディスプレイでどの程度 JMPAカラーを再現できるか見てみましょう。
上の図は、カラーで「JMPAカラー」、白でディスプレイの色域を示したものです。1つめはLab空間、2・3番目はYxy空間にプロットしました。マゼンタ 〜 オレンジにかける赤系色の一部カバーできていません。さらにグリーン 〜 ブルーでは再現できない色が多く存在します。具体的には、エメラルドグリーンや、コバルトグリーン、ナイルブルー、ビリジアン、そして特に濃い(暗い)セルリアンブルー、ボトルグリーン、ビリヤードグリーン(和名でいえば、ときわいろ、わかたけいろ、あおみどり、あさぎいろ、つゆくさいろ、もえぎいろ 等)などの南国の海や、若竹林などに見られる美しい色が再現できません。
では次に、LCD2690WUXi を見てみましょう。明部では JMPAカラーを余裕でカバーする驚異的な色域を持っています。(液晶ディスプレイは加色法ですからね) 暗部では一部の色がカバーできていませんが、ほんのわずかに収まっています。
ビリヤードグリーン(濃い青緑)のごく一部が欠けていますが、ここまで暗い色はほとんど見分けが付かないと思われます。また、濃厚な紫(パンジー)は不得意なようです。
Yxy空間でみれば、LCD2690WUXi が JMPAカラーのほとんどをカバーしていることが分かります。実用的に問題になるとすれば、おそらく彩度の高い紫〜マゼンタぐらいでしょう。
LCD2690WUXi は印刷に用いる色空間を完全と言って良いほどカバーしています。さらに強力な補正・調整機能により、DTPにおいて LCD2690WUXi は極めて強力なツールになると思います。