フルHD映像とマルチチャンネル音声を、ケーブル1本で劣化なしに転送できる 次世代デジタルAVインターフェース・HDMI。
しかしHDMIはたいへん高度で繊細な技術で運用されているため接続トラブルが相次いでいます。
当ページでは、ほとんどのトラブル原因である HDMIケーブルについて、規格と選び方を解説します。
HDMI とは High-Definition Multimedia Interface の略で、AV機器間を接続する次世代インターフェースの1つです。とても小さなコネクタと、細くて取り回しやすいケーブル1本で高解像度映像(フルHD、ハイビジョン)と、マルチチャンネル音声を転送できるとても便利な規格です。HDMIで接続された機器、たとえば Blu-ray Disc プレーヤと 液晶テレビの間は非圧縮のデジタル信号で転送されるため、映像・音声が一切劣化しないという強力な特徴を持っています。また、HDCP ( High-bandwidth Digital Content Protection ) とよばれる著作権保護機能(暗号化)を持っているため、コンテンツベンダー(映画会社等)もHDMIの普及を心待ちにしています。
HDMIは現在 世界的に広まりつつあり、アメリカではHDCPへの対応が義務づけられているため爆発的普及がすでに始まっています。日本でも、ハイビジョンテレビ(液晶、プラズマ、リアプロジェクション)やハイデフビデオゲーム機(PLAYSTAION 3 , Xbox 360 等) の登場で、急速に広まり始めています。さらに SACD などのピュアオーディオの世界でもHDMIが使われつつあり、スタンダードインターフェースになるのは間違いないでしょう。
HDMIはコンピュータとデジタルディスプレイを接続する DVI ( Digital Video Interface ) に、音声伝送機能、著作権保護機能 (HDCP)、色差 (YUV) 映像方式のサポート を加え、米 Silicon Image 社を中心に2002年末に制定されました。よって、DVI と HDMI は兄弟のような存在であり、ある程度の互換性を持っています。
HDMI はそのコネクタに、 19ピンの「タイプA」、29ピンの「タイプB」、タイプAを小型化した「タイプC」の3つがあります。現在販売されているHDMI対応機器のほぼ全ては 19ピンのタイプAなので、コネクタ形状でトラブルになることはしばらくないでしょう。
しかしHDMIには、伝送する映像・音声のフォーマットや信号方式に複数のバージョンが存在します。これが大きなトラブルを招くことがよくあります。AV機器やケーブルの組み合わせを誤ると、映像が映らなかったり特定の機能が利用できないトラブルが発生します。
ここで注目すべきは HDMI 1.2 と 1.3 の変化です。 非常に高品質な映像・音声をサポートするために、従来よりも高速な信号伝送方式を採用しています。このことから HDMI 1.3 / 1.3a は「次世代HDMI」と呼ばれ、従来のHDMIと区別する必要があるのです。 数々の仕様が改められたために、多くの人々は「HDMI 2.0 」と名付けられると予想してたほどです。
また、HDMI 1.2a でサポート、HDMI 1.3a で強化された「機器間制御機能」によりHDMI対応機器同士で高度な連帯ができるようになりました。この機能を利用し、松下電器は「VIERA Link」、シャープは「AQUOS ファミリンク」という連帯機能を自社の製品に採用し、液晶テレビやHDDレコーダの連動が可能になりました。しかしこれらの具体的プロトコル(通信命令方式)は各社独自のもので、あくまで同じメーカーの機器同士としか連帯できないことが指摘されています。これらの機能は、メーカーが「抱き合わせ販売」的な戦略を講じていることが原因とされており、ユーザーの利便性を考えた製品開発が待たれます。
HDMIの映像伝送には、DVIと同じTMDS(Transition Minimized Differential Signaling)という高速シリアル伝送方式が使われています。TMDSは米Silicon Image社が開発した「PanelLink」という方式を拡張したもので、VESA(Video Electronics Standards Association)によって標準化されています。TMDSでは映像伝送に3つのチャネル(赤・緑・青 各1チャンネルずつ、それぞれチャネル0、チャネル1、チャネル2と呼ぶ)+同期用のクロックチャネル(チャネルC)の計4チャネルを束ねて“リンク”として用います。WQXGAディスプレイの接続に用いる「デュアルリンクDVI」とはTMDSを2リンク使っていることを意味しています。1つのチャネルは2本の50Ω信号線による差動駆動によって伝送されるため、1リンクあたり最低8本の信号線・端子が必要になります。HDMIケーブルでは各チャネルごとにシールドが施されているためさらに4本増えて12本、それに電源供給やホットプラグ検出用信号線などを加えて合計18本もの導線が通っています。すごいですねぇ・・・。ちなみにHDMIコネクタは19ピンですが1ピンは予備として結線されていません。
TMDSの伝送容量は1チャネルあたり1.65Gb/s.です。1リンクには3本のデータラインチャネルがあるため、1.65 × 3 = 4.95Gb/s. の伝送能力を持っています。HDMI 1.3 に採用されている iTDMS ではクロックレートが約2倍の340MHzになり10.2Gb/s.になっています。しかし今現在、民生用として製品化されているiTDMS伝送機器の最大クロックレートは225MHzです。まだ HDMI1.3の能力をフルに使う映像機器は存在しないというわけです。
HDMI は非常に広帯域なインターフェースで、クロックレートは 165MHz、HDMI 1.3 では 340MHz に達します。黄色いピンケーブルでおなじみのコンポジットビデオ端子や、S端子に接続するケーブルで伝送される 480i NTSC 映像信号の帯域がわずか13.5MHzであることを考えると、HDMIがどれだけすさまじい信号を伝送しているのかおわかりになるでしょう。
そのためケーブルには、従来のインターフェースでは必要なかった 高周波ノイズ対策 を含めた、非常に高い伝送品質が求められます。HDMIケーブルを購入するときは、ケチらずハイグレードなものを購入しましょう。
ケーブルの品質は大抵、ノーブランド・製品付属品 <= エレコムの安物 < サンワサプライなどのコンピュータサプライメーカ < オーディオテクニカ等のAVメーカー < モンスターケーブル等の Hi-Fi ブランド となっています。また、例えばオーディオテクニカでは、スタンダード・ハイグレード・スーパーハイグレード(ART Linkシリーズ)などにグレード分けされており、3000円 から2 万円のものまであります。モンスターケーブルに至っては、2mで4万円と半分プラシーボ効果で構成される高貴なピュアオーディオの世界に突入してしまいます。ケーブルに何万円もつぎ込む必要はないと思いますが、2m以上の長いケーブルを使用するならば 3000円以下のケーブルは避けたほうが無難でしょう。 安価なケーブルの中には導線が適切にツイストされていない粗悪な製品もあるので注意してください。
余談ですが、CD-Rメディアや、このようなデジタル信号ケーブルでしばしば「流れてる情報はデジタル、つまり1か0の世界なんだから音質・画質に影響なんてない!」という主張がなされます。たしかにデジタルデータが劣化しないのは事実です。しかし、信号自体は紛れもないアナログ信号なのです。その情報がもつエラー訂正能力を超えてしまう伝送エラーが発生すれば、情報の一部が失われ、画質・音質は劣化します。コンピューターのデータは1ビットの誤りも許されないため、頑強なエラー訂正機能と、エラー発生時のリトライ・警告機能を持っていますが、映像・音声などは少しのエラーなら致命的な問題にはならないため無視します。そのため、エラーを少なくするためには、従来のアナログ時代と同じアプローチが必要なわけです。
いろいろ語ってしまいましたが、心配だったら一流AV機器メーカーのを買うのが一番です。またコンピュータサプライメーカーのケーブルを買うのは注意した方が良いでしょう。オーディオテクニカ、ビクター、ソニー、オンキヨー 等のAV機器メーカはアナログ時代からの高品質ケーブルを作るためのノウハウを十分持っていますが、 一部のサプライメーカは「適当に導線買ってきて作ればいい」というカルチャーを持っています。品質のよくないケーブルですと、たとえば「 1080i は映るのに、1080p は映らない 」と言った一見ケーブルが原因とは思えないトラブルも発生します。
HDMIは、フルハイビジョン映像と高音質なオーディオを同時に送ることができ、家庭用コネクタとしては非常に多いピン(現在一般的なタイプAコネクタの場合19ピン)持ちながら非常に小さいコネクタが採用されています。これは姉妹規格である DVI のコネクタを見ても明らかです。また、DVI のサイド固定ねじのようなロック機構がないのも特徴です。そのため、HDMIコネクタ、HDMIポートの扱いには細心の注意が必要です。
▲ DVI-Dコネクタと HDMIコネクタ(プラグ)
姉妹規格である DVI と比べても1つのピンが極めて小さい。またDVIはピン-オス型、HDMIはアンフェノール-メス型を採用している。
乱暴にHDMIケーブルを抜き差しすると、コネクタ・ポートが歪み、接触不良や簡単に抜けてしまうなどの問題が発生してしまいます。特に、重いコネクタ変換アダプタは要注意です。アダプタとケーブルの重みでポートに てこの応用的な負荷がかかり、ポートを痛めてしまいます。HDMI - DVI 変換アダプタを用いる場合は、DVI端子側に付けることを強くオススメします。つまり、DVI -> HDMI に変換し、装置間を HDMIケーブルで接続するということです。 また、モンスターケーブル社からはこの問題を考慮してか、短いケーブルがついた分離型の変換アダプタが発売されています。値は張りますが高い評価をうけています。
※ DVIやHDMIのアダプタ・ケーブルについては「MITSUBISHI RDT261WH 特集 | HDMI、DVIケーブル 一覧」ページにまとめましたのでご覧ください。